あるデザイナーの告白
「ChatGPTに画像も文章もコードも全部やらせてた時期がある。結果は全部60点だった」
Shinobis Designというデザインブログを運営するクリエイターが、自分のAIワークフローを公開した記事が話題になった。彼が到達した結論はシンプルだ——AIツールは1つに絞るな、4つに分けろ。
2024年までの「AI活用」は、ChatGPTという万能ナイフ1本で全工程をこなそうとするスタイルが主流だった。テキスト生成も、画像生成も、コード補助も、全部1つのチャット画面で完結させる。便利だが、どの出力も専門ツールには及ばない。
2026年、トップクリエイターの間では明らかに潮目が変わっている。Stack Overflowの調査によれば、開発者の95%がAIツールを週次で利用しており、そのうち70%が2-4種類のツールを併用している。「1ツールで全部」から「複数ツールで分業」へ。この移行は、もはや一部の先進的なクリエイターだけの話ではなく、業界の標準になりつつある。
「脳・目・手・耳」の4層構造
では、具体的にどう分けるのか。実務で回っている組み合わせを整理すると、こうなる。
脳 = Claude。企画書を練る、構成を考える、コードを書く。思考と言語に関わる工程はここ。Claude Codeを使えば、企画から実装までを一気通貫で回せる。
目 = Midjourney。ビジュアルコンセプトの探索、スタイルの方向性決め、デザインラフの量産。V7のDraft Mode(通常の10倍速・半額)を使えば、20枚のスタイル候補を15分で出せる。アイデアが固まる前の「探索フェーズ」に強い。
手 = Runway / Kling。動画の生成と編集。RunwayはAdobe Premiere Proに統合されており、プロの映像編集ワークフローにそのまま乗る。Kling 3.0は4K/60fpsの動画を生成でき、マルチショット(複数カットの連続生成)に対応している。
耳 = ElevenLabs。ナレーション音声の合成とBGMの生成。テキストを入力すれば人間そっくりの音声が出力され、ElevenMusicでオリジナルBGMも作れる。
この4層を使い分けるだけで、従来3週間かかっていたLP制作が3日で終わるケースがある。
「全部ChatGPTでやる人」との差は3-5倍
ある調査によると、マルチツール運用をしているクリエイターと、単一ツールに依存しているクリエイターでは、産出量に3-5倍の差が出ている。
理由は単純だ。各ツールには「得意な仕事」と「苦手な仕事」がある。ChatGPTの画像生成は手軽だが、Midjourneyのスタイル表現力には及ばない。Claudeの文章は優れているが、動画は作れない。苦手な仕事を無理にやらせると、品質が下がるか、工程が増えるか、その両方が起きる。
ルールは1つだけ。「1つのツールに、別のツールの仕事をさせない」。
これを守るだけで、成果物の品質と制作速度が同時に上がる。
1日の流れで見る実ワークフロー
実際にマルチツールで案件を回しているデザイナーの1日を追ってみる。
朝、クライアントからブリーフ(制作要件書)が届く。まずClaudeに投入する。ターゲット分析、コンセプト案3つ、ワイヤーフレームの文章化まで、30分。この段階ではビジュアルは一切作らない。「何を作るか」を決めるのが先だ。
午前中、Claudeで固めたコンセプトをMidjourney V7のDraft Modeに渡す。10倍速モードで大量にラフを出し、20枚のスタイル候補を15分で生成。クライアントに共有して方向性を決める。ここまでで半日も使っていない。
午後、確定したデザイン方向をClaude Codeで実装する。LP1ページなら2-3時間で完成する。並列エージェント(複数のClaude Codeセッションを同時に走らせる手法)を使えば、別案件を同時に進めることもできる。
夕方、LPのヒーロー動画をKling 3.0で生成する。AI Director機能でマルチショット(複数カットの連続シーン)を作り、BGMはElevenMusicで30秒で生成。
この流れで、従来なら3週間の案件が3日で完了する。
なぜ「スタック」という言葉が使われるのか
ソフトウェア開発では、技術の組み合わせを「スタック」と呼ぶ。フロントエンドにReact、バックエンドにNode.js、データベースにPostgreSQL——といった構成を「技術スタック」と言う。各層が役割を分担し、全体として1つのシステムを構成する。
AIツールの使い分けも、まったく同じ発想だ。Claude、Midjourney、Kling、ElevenLabs——それぞれが異なるレイヤーを担当し、組み合わせて初めてプロジェクト全体をカバーする。だから「AIスタック」と呼ばれる。
重要なのは、このスタックは固定ではないということだ。Soraが終了してKlingが台頭したように、最適なツールは常に入れ替わる。ツールそのものではなく、「どの工程にどんな特性のツールを置くか」という設計思想を持つことが、変化に強いワークフローを作る。
日本では「体系化」がまだない
日本のAIツール情報は、noteやZenn、YouTubeで個別のツール紹介が大量に出ている。「Midjourney V7の使い方」「Claude Codeの始め方」「Klingで動画を作ってみた」——こうした記事は豊富だ。
しかし、職種別に最適なAIスタックを体系化したコンテンツは、日本語ではほぼ存在しない。Webデザイナーならこの組み合わせ、マーケ担当ならこの組み合わせ、YouTuberならこの組み合わせ——そういう「地図」が描かれていない。
個別ツールの使い方を教えるコンテンツは「教科書」だ。AIスタックの設計を教えるコンテンツは「カリキュラム」にあたる。教科書は溢れているが、カリキュラムが足りない。
2023年に量産された「最強AIツール○選」系の比較記事は、半年で陳腐化して大半が更新停止になった。生き残ったのは、個別ツールの紹介ではなく、実運用ベースのワークフロー解説だった。表面的な比較ではなく、「自分の仕事にどう組み込むか」を示せたコンテンツだけが価値を持ち続けている。
ツールは変わる。だが、「分業する」という考え方は変わらない。
出典: Shinobis Design / ALM Corp / DQ India / AI Video Bootcamp
