Sam Altmanが「terrible」と語った日
2026年3月29日、OpenAIはSoraの終了を発表した。
その少し前——公式発表からわずか1時間前のこと——Sam AltmanはDisneyの新CEOであるJosh D'Amaroに電話をかけている。
Altmanはポッドキャスト「Mostly Human」でその時のことをこう語った。
"The very first thing that the new Disney CEO Josh said to me, and I felt, like, terrible… He's like, 'I get it.'"
3ヶ月前、両社は歴史的な提携を結んでいた。Disney、Marvel、Pixar、Star Warsから200以上のキャラクターをSoraで生成可能にする3年間のライセンス契約。報じられた規模は10億ドル。Disneyがこの契約にどれだけ期待していたかは、Deadline誌がこの一件を「ハリウッドのビッグテック依存の脆弱性を露呈させた事件」と報じたことからも窺える。
結局、契約の実行段階に入る前にSoraが消えた。実際にお金が動くことはなかった。
なぜSoraは死んだのか
表面的には「ユーザーが減ったから」と説明できる。2025年11月のローンチ月、iOS+Android合計で333万ダウンロードを記録したSoraは、2026年2月には110万DLまで落ち込んだ。わずか3ヶ月で66%減。
だが、本当の理由はもっと構造的だ。
No Film School誌の報道によると、Soraの推定日次推論コストは1,500万ドル。一方、サービス全期間の累計売上は210万ドル。毎日1,500万ドルを燃やして、トータルで210万ドルしか稼いでいない。赤字という言葉では表現しきれない。
OpenAIのアプリケーション部門CEOであるFidji Simoは、社内の全体会議で「サイドクエストを閉じる」と宣言した。Soraの計算資源は、次世代AIモデル(コードネーム「Spud」)の開発に振り向けられる。Spudはコーディングとエンタープライズ向け製品を強化するためのモデルだ。
つまり、OpenAIは「クリエイター市場」を捨てて「開発者・企業市場」に全振りしたということになる。
動画生成AIの「Soraのいない世界」
Sora撤退後、市場は即座に動いた。
Bloombergによると、中国Kuaishou(快手)のKling AIは、Sora終了直後の1週間でWAU(週間アクティブユーザー)が4%増の260万に達した。Kling 3.0は2026年2月にリリースされたばかりで、4K/60fps出力、最大6カットのマルチショット生成、キャラクターの外見を複数シーンで固定する「Subject Binding」、ネイティブのリップシンク(口の動きと音声の同期)まで搭載している。
Runway Gen-4.5はAdobe Firefly内に統合され、Premiere Proから直接呼び出せるようになった。Google VeoはYouTubeとの統合を狙い、クリエイターへの無料提供を進めている。
面白いのは、Soraが死んだことで市場全体が活性化したという点だ。最大手の撤退は混乱を生むかと思いきや、むしろ競争が健全化し、各社が機能と価格で勝負する環境が生まれた。
これが日本で意味すること
「Sora 代替」「動画AI 比較」——このキーワードで今日本語検索すると、まだ情報がほとんどない。
Soraを使っていた日本のクリエイターやマーケ担当は、今まさに「次のツール」を探している。Kling 3.0の操作ガイドも、Runwayとの比較も、日本語ではほぼ書かれていない。
動画生成AIの市場規模は、2025年の25.2億ドルから2030年には34.1億ドルに成長する見込みだ(CAGR 6.4%)。AI動画生成・編集に限ると、2036年までに248.9億ドル、CAGR 21.4%。Soraが消えても市場は成長し続ける。
この事件から学べること
Soraの終了は「技術の失敗」ではない。ビジネスモデルの失敗だ。
最先端の動画生成技術を持っていても、1日1,500万ドルのコストを支える収益モデルがなければ維持できない。「すごい技術 → ユーザーが集まる → 収益化はあとで考える」というシリコンバレーの古典的な順番が、AI時代の計算コストでは通用しなかった。
一方で、Kling 3.0やRunwayは持続可能な価格帯(月$10-60)でサービスを提供し、ユーザーを積み上げている。「技術の華やかさ」より「コスト構造の持続性」が勝った構図だ。
ちなみにAltmanはSora終了後のインタビューで「Disneyとはまだ協議を続けている」とも述べている。Soraの器は壊れたが、OpenAIとDisneyの関係が完全に切れたわけではないらしい。次に何が生まれるのか——それはまた別の話になる。
出典: Variety / Deadline / No Film School / Bloomberg / TechCrunch
